研究部門research department

　泌尿器病態制御・移植免疫部門（泌尿器科）では主に、悪性腫瘍、排尿に関すること、性機能や不妊に関すること、結石などの生活習慣病に関すること、腎機能低下（慢性腎臓病）に関すること、感染症など多くの疾患の原因や治療を実施しています（図）。その中で、特に加齢に関連するのは排尿機能、悪性腫瘍、性機能、尿路結石、腎機能低下、感染症で、ここではそれぞれに関する取り組みを紹介します。

排尿機能

　膀胱の機能は尿をためること（蓄尿）、尿を出すこと（排尿）から成り立っています。蓄尿時には出口が締まって膀胱が伸びる必要があり、排尿時には出口が開いて膀胱が収縮して尿を絞り出す必要があります。出口の開閉と膀胱の伸び縮みが協調的に行われれることで、蓄尿と排尿ができています。加齢によって出口が十分に開かなくなる、加齢や糖尿病などで膀胱の収縮が十分にできなくなると、尿の勢いが弱くあり（尿勢低下）、排尿後も膀胱内に尿が残るようになり（残尿過多）、すぐに膀胱が満杯になるために尿の回数が増える（頻尿）ようになります。尿の出口が開かず、出にくい状態が続くと、膀胱が頑張って尿を絞り出す必要が出てくるため、膀胱が尿を絞り出す筋肉（排尿筋）が頑張る必要が出てくるため、膀胱に無駄な筋肉がついて膀胱内に筋肉の柱（肉柱）や憩室（膀胱内の小部屋）ができ、やがて排尿筋も機能しなくなる神経因性膀胱の状態となります。神経因性膀胱の状態になってから出口を開く治療を行っても、十分な排尿が得られるまで改善しないこととなります（不可逆的な変化）。当部門では、早期に排尿障害を診断し、薬物療法や手術療法を実施して、排尿状態の改善を目指す、あるいはこれ以上排尿状態が悪くならないようにする、という治療を実施しています。排尿状態の検査として、尿流動態検査（ウロダイナミックスタディ、UDS）を取り入れ、患者さんごとに蓄尿・排尿状態を数値化して解析し、最適な治療選択と治療を実施し、治療後のデータ改善も測定しています。

悪性腫瘍

　悪性腫瘍の多くは加齢と関連しています。特に前立腺がんは高齢者に多く、平均寿命の延長に伴って患者さんの数が増加してきました。長期間の男性ホルモン（テストステロン）の刺激で前立腺肥大症や前立腺がんが発生し、前立腺生検という組織検査を実施して確定診断します。転移のない前立腺がんの治療にはロボット手術、放射線療法などが選択されますが、排尿状態も治療選択に関係してきます。また、転移のある方や高齢者の前立腺がんに対しては、ホルモン療法が選択されますが、多くの薬剤の中から年齢や病期に応じた薬剤を選択します。その他、高齢者の腎癌や膀胱がん等にも対応しており、年齢や合併症に応じて、それぞれの患者さんに最適と考えられる治療を実施します。当部門では、放射線療法を除く悪性腫瘍の治療に関して、治療前の治療方針決定、治療の細かい方法、治療後の経過等をデータベースにして取りまとめ、時には他の施設のデータと統合して情報を発信しています。

性機能

　年齢と男性性機能は密接に関連しています。特に、中高年以降は精巣（95%）と副腎（5%）から分泌される男性ホルモンが低下することが多く、性行為が若い時ほどうまくできなくなるほか、様々な症状を呈します。それを男性更年期障害とよび、LOH（「ロー」と読みます）症候群と呼ばれます。LOH症候群は、気持ちの落ち込み（うつ状態）、性機能低下（性欲減退や勃起障害（ED）など）、認知機能の低下のほか、骨粗鬆症や心血管疾患、肥満や糖尿病、脂質異常症（高脂血症）などに関連するとされ、生活習慣病のリスクを上げることにもつながります。LOH症候群に対しては、治療のひとつとして男性ホルモンの投与を行います。男性ホルモンの投与によって症状の多くは改善しますが、前立腺がんのリスクが上がるとも報告されており、厳重に経過観察を行っています

尿路結石

　尿路結石は生活習慣病の一つとされ、加齢とも関連しています。加齢による尿酸値の上昇や糖・脂質の代謝障害、尿流のうっ滞（つくられた尿の流れが悪いこと）が起こって結石ができやすくなります。結石の形成は腎乳頭の粘膜下にプラークができ、それが大きくなって粘膜から顔を出してきます。その時点では腎臓内に固着していてほとんど悪さをしませんが、腎臓から遊離して尿管に落ちてくると尿をせき止めたり、痛みや感染を起こすしたりすることになります。結石が大きくなる・遊離して尿の流れを阻害する、感染を合併して生命に危険な状態（敗血症）となると、手術を実施することになります。一度できた結石は、一部を除きなかなか自然に溶かすことができないため、手術の後は予防と経過観察が必要となります。予防に脱水は禁物で、どのような結石にも共通な方法として水分の摂取が推奨されます。その他、最も多い蓚酸（シュウ酸）結石に対しては、調理法の工夫や摂取を控えるなど、生活を改善させれば発生しなくなることが期待できます。

腎機能低下

　腎機能は年齢と密接に関連しています。年齢が上昇すると、腎機能も徐々に低下します。そこへ高血圧や糖尿病、尿路結石を含めた他の生活習慣病、尿流のうっ滞などが加わると、腎機能低下に拍車がかかります。泌尿器科で取り扱う腎機能低下は、腎臓で尿が産生された後に起こる障害によっておこるもので、主に尿路結石と排尿障害が多いといえます。結石が尿管に詰まることで、腎臓が尿の産生を控えると、反対側の腎臓に負担がかかります。また、膀胱の尿が前立腺肥大症などで排出できなくなると、膀胱が常に尿で満たされた状態となり、腎臓の尿産生能力を低下させます。泌尿器科では、応急的に尿の流れを確保する尿管ステントや腎瘻（じんろう）造設、尿道カテーテル留置などのほか、内服薬で尿流の改善を促す方法や、結石の破砕と除去、肥大した前立腺をくりぬいて尿の流出路を確保する、などの手術を実施します。いずれの場合にも、腎機能低下の原因を各種検査で突き止め、どこの流れを改善すれば腎機能も改善するのか、流れを改善した後はどの程度回復するのか、といった研究も実施しています。

感染症

　女性は尿道が短く、特に尿の流れが正常でも感染症が起き得ますが、男性では尿道が長いこと、強い尿流で尿道の洗浄が行われることから感染症は起きにくい状態となっています。しかし、加齢によって尿の流れがスムーズではなくなった状態では、尿道を上行してきた細菌による感染症が起こりやすくなります。男性の場合、加齢によってまず起きやすいのが細菌性前立腺炎です。前立腺は膀胱の出口に位置し、精液の一部を産生して精子の運動や受精を助ける前立腺液を産生する働きがあります。加齢によって膀胱機能が落ちる、あるいは前立腺肥大症によって尿の流出路が狭くなると、尿の勢いが悪くなって細菌が上行しやすい状態となります。前立腺炎では、高熱と排尿困難感、頻尿などが主な症状で、抗菌薬を投与して尿流を改善させることが治療となります。感染症が落ち着いてから、患者さんに応じた根本的な治療（薬物療法や手術）を提示することがあります。
　感染症で世界的な問題になっているのは、細菌の薬剤耐性（Antimicrobial resistance、AMR）で、特に大腸菌で問題となっています。キノロン耐性大腸菌や、さらに多くの薬剤に耐性を示すESBL（イーエスビーエル）産生大腸菌が増加し、使用できる抗菌薬がかなり限られた状態となっています。当部門では、薬剤耐性菌に関する研究を実施しており、薬剤耐性化のメカニズムや疫学調査などを実施し、世に情報発信を行っています。

過去の主な論文など

1. The Impact of Concomitant Medications on the Overall Survival of Patients Treated with Systemic Therapy for Advanced or Metastatic Renal Cell Carcinoma: A Systematic Review and Meta-analysis.Tsuboi I, Matsukawa A, Kardoust Parizi M, Miszczyk M, Fazekas T, Schulz RJ, Mancon S, Litterio G, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Rajwa P, Wada K, Karakiewicz PI, Araki M, Shariat SF. Clin Genitourin Cancer. 2024 Dec;22(6):102237.
2. Oncological Outcomes of Active Surveillance versus Surgery or Ablation for Patients with Small Renal Masses: A Systematic Review and Quantitative Analysis. Tsuboi I, Rajwa P, Campi R, Miszczyk M, Fazekas T, Matsukawa A, Kardoust Parizi M, Schulz RJ, Mancon S, Cadenar A, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Wada K, Karakiewicz PI, Remzi M, Araki M, Shariat SF. Eur Urol Oncol. 2024 Oct 24:S2588-9311(24)00236-0.
3. The efficacy of adjuvant mitotane therapy and radiotherapy following adrenalectomy in patients with adrenocortical carcinoma: A systematic review and meta-analysis. Tsuboi I, Kardoust Parizi M, Matsukawa A, Mancon S, Miszczyk M, Schulz RJ, Fazekas T, Cadenar A, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Wada K, Remzi M, Karakiewicz PI, Araki M, Shariat SF. Urol Oncol. 2024 Oct 7:S1078-1439(24)00654-9.
4. Sequential therapy for hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer-associated renal cell carcinoma: a case report and report of a new family pedigree. Tsuboi I, Araki M, Yokoyama S, Tanaka G, Mitani K, Yosioka S, Kobayashi Y, Nakajima H, Nagami T, Ogawa K, Koike C, Wada K. Oxf Med Case Reports. 2024 Aug 23;2024(8):omae060.
5. Differential effect of surgical technique on intravesical recurrence after radical nephroureterectomy in patients with upper tract urothelial cancer: a systematic review and Meta-analysis. Tsuboi I, Matsukawa A, Kardoust Parizi M, Klemm J, Schulz RJ, Cadenar A, Mancon S, Chiujdea S, Fazekas T, Miszczyk M, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Wada K, Gontero P, Rouprêt M, Teoh J, Singla N, Araki M, Shariat SF. World J Urol. 2024 Aug 20;42(1):488.
6. Infection risk reduction with povidone-iodine rectal disinfection prior to transrectal prostate biopsy: an updated systematic review and meta-analysis. Tsuboi I, Matsukawa A, Parizi MK, Klemm J, Mancon S, Chiujdea S, Fazekas T, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Wada K, Araki M, Shariat SF. World J Urol. 2024 Apr 23;42(1):252.
7. A Systematic Review and Meta-analysis of the Impact of Local Therapies on Local Event Suppression in Metastatic Hormone-sensitive Prostate Cancer. Tsuboi I, Matsukawa A, Kardoust Parizi M, Klemm J, Mancon S, Chiujdea S, Fazekas T, Miszczyk M, Laukhtina E, Kawada T, Katayama S, Iwata T, Bekku K, Karakiewicz P, Wada K, Rouprêt M, Araki M, Shariat SF. Eur Urol Oncol. 2024 Dec;7(6):1185-1194.
8. Metastatic small cell bladder cancer treated with sequential systemic therapy including pembrolizumab and amrubicin: A case report. Mitani K, Tsuboi I, Tanaka G, Yosioka S, Yokoyama S, Kobayashi Y, Nakajima H, Nagami T, Ogawa K, Wada K. IJU Case Rep. 2023 Dec 19;7(2):127-130.
9. Third nationwide surveillance of bacterial pathogens in patients with acute uncomplicated cystitis conducted by the Japanese surveillance committee during 2020 and 2021: Antimicrobial susceptibility of Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, and Staphylococcus saprophyticus. Wada K, Tsuboi I, Takahashi S, Yasuda M, Miyazaki J, Kobayashi K, Matsumoto M, Hayami H, Yamamoto S, Kiyota H, Sato J, Matsumoto T, Hasegawa N, Kobayashi I, Masumori N, Kimura T, Yamada H, Matsumoto K, Ishikawa K, Fujimoto K, Shigemura K, Sadahira T, Ito K, Yokoyama T, Izumitani M, Sumii T, Hosobe T, Hikosaka K, Kawahara M, Sato T, Ito S, Masue N, Sakurai T, Kokura K, Kadena H, Morikawa T, Minamidate Y, Yoh M, Hashimoto J, Maruyama T, Yoshioka M, Takashima K, Kawai S, Nishi S, Matsumoto T, Hirayama H, Okusa H, Uno S, Inoue Y, Kurimura Y, Shirane T, Takaoka E, Tojo T, Arakawa S, Hamasuna R, Tomioka A, Iihara K, Ishitoya S, Maeda H, Terado M. J Infect Chemother. 2024 Apr;30(4):277-285.
10. Bladder stone formation around polyethylene glycol after use of SpaceOAR Hydrogel. Tanaka G, Tsuboi I, Mitani K, Yoshioka S, Yokoyama S, Kobayashi Y, Nakajima H, Nagami T, Ogawa K, Wada K. IJU Case Rep. 2023 Aug 18;6(6):353-356.
11. Right adrenal giant cystic pheochromocytoma: A case report.Tsuboi I, Ogawa K, Kadota K, Kishi T, Kawabata Y, Wada K. Urol Case Rep. 2023 Apr 5;48:102398.
12. Cut-to-the-light technique is useful for complete obstruction of a Wallace ureteroileal anastomosis. Tsuboi I, Yokoyama S, Nakajima H, Yosioka S, Kobayashi Y, Nagami T, Ogawa K, Wada K. IJU Case Rep. 2023 Feb 3;6(2):154-156. 
13. Isolated rupture of the corpus spongiosum with urethral injury diagnosed by pre-surgical MRI. Yokoyama S, Tsuboi I, Ogawa K, Yoshioka S, Kobayasi Y, Nakajima H, Nagami T, Yamasaki S, Wada K.IJU Case Rep. 2022 Nov 22;6(1):70-72.
14. Post-prostate biopsy acute bacterial prostatitis and screening cultures using selective media: An overview.Acosta H, Sadahira T, Sekito T, Maruyama Y, Iwata T, Araki M, Ogawa K, Tsuboi I, Wada K. Int J Urol. 2022 Jun;29(6):486-493.